今日は「こどもの日」。だけど、僕にとっては、ゴールデンウィークの1日に過ぎない。
子供がいないから、特に何かをするわけでもなく、普段と変わらずスーパーへ買い物に行っただけだ。
でも、季節はちゃんと流れているようで、店内には柏餅がずらりと並んでいた。ああ、今日はそうだったな……と、ようやく思い出す。カレンダーより、こういう売り場の風景のほうが、よっぽど季節を感じさせてくれる。
せっかくだからと、ひとつだけ柏餅を買って帰る。
お茶の時間に、ちょっとした「こどもの日」気分でも味わってみようと思った。
柏餅をひと口食べて、ふと――思い出した。
子供の頃、両親が買ってくれたガラスケースに入った「兜飾り」。
あの兜飾りには、オルゴールがついていた。
ケースの横にゼンマイを回すネジがついていて、くるくると巻くと「♪屋根より高い~鯉のぼり~」のメロディーが流れる。今思えば、ごく普通の作りかもしれない。でも、当時の僕にとっては、それがたまらなく嬉しかった。
ゼンマイを何度も巻いては、繰り返し聴いていた。母に「また聴くの?」と笑われるほどに。
音の出るものって、どうしてあんなに魅力的なんだろう。音楽が流れるたびに、兜飾りがより立派に見えて、部屋の中が急に“特別な場所”になる気がした。
あの時の、なんとも言えない「気持ちの高ぶり」。
嬉しい、楽しい、誇らしい――どれも近いけれど、どれとも少し違う。
胸の奥がふわっと膨らんで、目の前の兜飾りがまるで“自分だけの宝物”のように思えた感覚。
今思えば、それは「誰かに買ってもらった」ということ以上に、「自分だけの時間」がそこにあったからかもしれない。
毎年の行事だけど、自分の感情がちゃんとそこにあった。
それを思い出せたのが、今日のいちばんの収穫だった気がする。
子供のいない今の自分にとって、「こどもの日」は、昔の自分に会う日なのかもしれない。
柏餅を食べている今この瞬間も、ちゃんと“あの頃の僕”とつながっている気がして、ちょっとだけ笑ってしまった。
そんな「こどもの日」。
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